借金大国・日本(土屋剛俊)

日本は経済大国です。GDPは世界第3位(2021年)で、治安もよく、日米安保条約でアメリカが守ってくれるはずなので、他国に侵略されて滅ぼされてしまう可能性も低いと思われます。したがって、今すぐに日本円が紙くずになる可能性は低そうです。 では今の日本で、何が起きると日本円が紙くずになってしまうのでしょうか。 実はこの問題については世界中の経済学者やエコノミスト、政治家、投資家、アナリスト、ジャーナリストなどが長い間ずっと議論しています。 この議論で怖いのは、自分の意見と違うことを主張する人を、経済学の基本すらまるでわかっていない最悪の人間として、人格否定をするような発言が多くみられることです。 物事にはいろいろな考え方があり、自分とは違う意見も尊重したらいいと思うのですが、一向に収まりません。 主な論点は、次のふたつです。 「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」 「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」 この真逆のふたつの意見が対立しています。前者の代表はMMT推進派の人達、後者の代表は財務省です。 MMTとは現代貨幣理論と言われ、ざっくりいうと、「政府は自国通貨、つまり日本なら円での借金ならいくらしても大丈夫、なぜなら政府はお金を刷れるから」、という考え方です。政治家はMMTの「借金はいくらしても大丈夫」という理屈が大好きです。「増税しません。必要な財源は借金でまかないます。だっていくら借金したって平気だから」と選挙で言えるからです。 この論争に決着がつかないのは、最終的には「日本人がこの国を信用しなくなって見捨てるかどうかがわからないから」ではないかと思っています。日本人が将来的に日本を信じなくなるかどうかは、なってみないとわかりません。だからこそ、日本が破綻するリスクについての論争も、いつまでたっても決着がつかないのでしょう。 しかし、「日本を見捨てるかどうか日本人が迷うくらい」追い込まれているのは事実です。「日本という国が国民から信頼されなくなってしまうのではないか」という心配に対して、「外貨で借りてないからいいんだよ。円で借りてるから印刷機で刷れるでしょ」と説明するのは論点がずれているということです。 では、具体的に、「日本という国が国民から信頼されなくなってしまう」状況とはどういう状況でしょうか。それは、「国民が貯めたお金の価値がなんらかの形で失われること」です。国債が満期日に償還されない(元本が返ってこない)ことがストレートでわかりやすいですが、それ以外にももちろん起こります。 日本の借金はハイペースでずっと増え続けています。ざっくりと毎年約30兆円くらい増えていっているのです。毎月2.5兆円だと、1週間で5800億円、1日で820億円、1時間で34億円というすさまじいスピードです。国が借りたお金を返さず残っている国債を、国債の残高といいますが、現在約1000兆円くらいです。もしここで、平均借入金利が1%上がると利払いだけで10兆円が増加することになります。 もし新規に国債発行するのをやめて増税で賄おうとすると、消費税を25%にしてようやく借金が増えない状態になります。自分なりに「日本円はそのうち日本人の信頼を失い、紙くずになってしまうだろう」と思われた人は、ご自身の現金をドルなどの外貨に替えておかれるといいでしょう。